数年前に黒部源流の山々をめぐる山行に出かけた際、計画はしていたものの天気や体力の兼ね合いで断念した黒部五郎岳と薬師岳。関東からだとアクセスも遠くこの2座だけなかなか登れずにいました。7月の3連休、地図を眺めながらどこを歩こうか考えていた時にこの2座を思い出し、1泊2日のテント泊の計画をたてて歩いてきました。
計画について
この2座がいつまでも残ってしまった要因は、登山口までのアクセスが面倒であること、関東からアクセスしやすい登山口から縦走すると車の回収がしずらいこと、もしくは山行計画が長くなるということでした。この2座を同時に歩こうすると、山頂に最も近い登山口は富山県の折立登山口です。折立登山口に行くためには、有峰林道という観光道路を通過する必要があり、有峰林道は有料道路区間や通行制限があるため、金曜日に仕事を終えてから車を走らせ登山口に移動し、仮眠をとって早朝から歩き出すという計画が立てられません。それゆえに、つい後回しになってしまい足が遠のいてしまっていました。今回は3連休で予備日も確保できるし、車の移動時間が長くても大丈夫ということで折立登山口から1泊2日のテント泊でこの2座を歩くことを決めました。
0日目 仕事終了後に亀谷ゲートまで移動 (上信越道、北陸道経由)
1日目 亀谷ゲート→折立登山口→太郎平小屋→薬師峠(幕営)→薬師岳→薬師峠でテント泊
2日目 薬師峠→北ノ俣岳経由で野口五郎岳→薬師峠(テント撤収)→折立登山口→東谷ゲート
登山口までのアクセスと駐車場問題
有峰林道のゲートと走行時間制限
仕事を定時で切り上げて、車に荷物を積み込み出発です。上信越道と北陸道を乗り継ぎ富山まで。運転は2人で交代しながら、交互に仮眠や食事をとってまずは亀谷ゲートを目指します。有峰林道の走行可能時間は6時~20時まで。そして有峰林道には主に3つの入り口があるそうです。今回私たちは富山県からアプローチする亀谷ゲートからアクセスすることにしました。理由は2つです。6時にゲートが開いてから最も早く登山口に到着できることと、対面2車線で走りやすいという情報を目にしたから。実際、帰りは東谷ゲートを通りましたが、道路の走りやすさは亀谷ゲートに軍配が上がると思います。関東からのアクセスに限りますが、もし私たちと同様に、少しでも早く登山を開始したいという理由がある場合には、亀谷ゲートをお勧めします。
入口 | アクセス方法 | 登山口までの所要時間 |
亀谷ゲート(小見線) | 富山県から折立登山口に向かう主要な入口 | 40分(19km) |
水須ゲート(小口川線) | 富山県から有峰湖畔や周辺の施設へのアクセスに利用 | 65分(33km) |
東谷ゲート(東谷線) | 岐阜県側(有峰湖の南)からの一口 | 55分(28km) |
私たちは23:00に亀谷ゲートに到着しました。ゲートに到着すると既に車がゲート前にならんでいました。ゲートの隣には小さな駐車場がありますが、どの車も駐車場は使用せずに列に並んで待っていました。私たちも車の列の最後尾に並び、そこから数時間仮眠をとることにしました。明日から3連休という金曜の夜でしたが前から5台目くらいでした。朝5:00に目が覚めると車はずっと後ろまで列をなしていました。当初は、手前の道の駅や亀谷駐車場で仮眠をとることも検討しましたが、このあと出てくる駐車場問題の兼ね合いもあるため、迷いましたが夜のうちに列に並び、交代で仮眠をとるという選択をしました。やはり駐車場問題は大問題だと感じました。


折立駐車場の混雑状況
6:00ちょうどにゲートが開き、料金所で2,000円を支払ってゲートの中に進みます。ゲートから折立駐車場までは40分程度。対面通行で走りやすい道でした。ここからは、駐車場に停められるかという問題です。駐車場に到着すると、すでに満車になっていて登山口から300m程離れた臨時駐車場に案内されました。この時間ですでに8割は埋まっていました。誘導係が1台1台駐車する場所を指定してくれるので、どこに停めればよいか迷うことはありませんでしたが、駐車場に入るためにかなり車の列が伸びていて駐車待ちが発生していました。私たちは5台目だったので、そんなに待たずに駐車することができました。この点を鑑みてもゲートには夜のうちに並んでおいたほうがスムーズに車を駐車できるということにつながると思いました。以前から、新穂高温泉と同様に折立も駐車場がいっぱいで停めるのに苦労するという情報も目にしていたので、それも折立からの登山に気が進まない理由の1つになっていましたが、噂通りでした。今回の山行の核心部の1つだったと思います。無事に車を止めてやっと登山が開始できたのは7時。本当にほっとしました。
北アルプス薬師岳
登山口から三角点ベンチ
臨時駐車場から300m程のところにある登山口から登り始めます。まずは樹林帯の登りですが、登り始めから木の根や土の急登が続きます。足元は滑りやすく、崩落箇所もあるので注意が必要です。標高差350mほど、1時間くらい登ったところにアラレちゃんの看板がある広場に出ます。

そこからは少し平坦な道が続き、緩やかに150m程標高を上げると、三角点があり大きなベンチが置いてある広場に出ます。一気に視界が開けて富山方面や有峰湖の眺めがとても良い場所です。翌日の下山時(13時ころ)に三角点ベンチから下で、蜂が飛んでいるのが気になりました。なるべく刺激しないように静かに歩きました。もし気になる方は何か対策したほうがいいかもしれません。

三角点ベンチから太郎平小屋
ここから太郎平まで4.2km。次めざすのは五光岩ベンチ。コースタイムで約1時間半、標高330m登っていきます。大小様々な岩がゴロゴロしていて、全体的にガレていて歩きづらい登山道が続きます。五光岩ベンチから先は階段になっていました。太郎平小屋に続くラスト50mくらいは木道になっておりとても歩きやすい道が続きます。五光岩ベンチから先は森林限界も超えて景色がひらけ、高山植物も咲き誇り、左手に立山や剱岳が見えてとても気持ちの良い登山道です。


テントの設営
太郎平小屋でテントの受付を済ませて、小屋から20分ほど離れた薬師峠キャンプ場に向かいます。テントは1人2,000円。小屋では食べ物や飲み物がたくさん売っていますが、テント場でも昼頃からビールとコーラのみ販売すると教えてもらいました。薬師峠キャンプ場までは木道が続いており、右手に水晶岳や三俣蓮華岳を眺めながら歩いていくと、正面にテント場が見下ろせる場所にたどり着きます。すでに何張かテントが張ってありましたが、まだまだ良い場所が選べるようでした。どのあたりにテントを建てようかと考えながら、登山道を下っていくと薬師峠に到着します。私たちはハイマツの横の平らなスペースにテントを建てました。

北ノ俣岳と黒部五郎岳とともに
テント場には、管理棟がたっていて昼過ぎからテントの受付や飲み物の販売をするということでしたがこの時間はまだ入り口がしまっていました。水場は管理等の少し下に下ったところにあります。冷たい水がジャバジャバ出ていました。水場のすぐ隣にトイレがあります。
薬師岳へ
水を補給して、行動食でエネルギーを補給したら薬師岳にアタックします。薬師岳へはコースタイムで上り3時間程度、下り2時間程度です。標高差は600m以上ありますので、テント場からさらにひと山上る感覚です。時間もかかるので焦る気持ちもありますが、ゆっくり休憩してエネルギーも補給してから出発したほうがいいなと感じました。
テント場からすぐに急登が始まります。初めは大きな岩がゴロゴロしている沢沿いを進みます。少し登山道も濡れているところがありましたが、すぐに沢から外れて大きな乾いた岩がたくさん出てきました。そこを上り切ると、また木道が現れて正面に槍ヶ岳が現れます。薬師平です。

ここの景色が最高でした。木道を過ぎると、どんどん角度を変えていつの間にか槍ヶ岳は右手に、後ろに黒部五郎岳が見えるようになります。登山道はザレていて緩やかに尾根が続いています。そこを上り切ると薬師岳山荘が現れます。薬師岳山荘からは薬師岳の頂上がよく見えて、あと1時間程度で薬師岳の頂上です。最後のひと上りです。
ジグザグのザレた登山道を上り詰めたところの壊れた避難小屋らしきものがありました。登り切った右側の斜面は美しいカール地形になっており、その先には赤牛岳や水晶岳、さらにその奥に裏銀座の稜線が見えて、右後ろには雲ノ平や黒部五郎、さらにおくには槍穂の稜線や笠ヶ岳まで見渡せました。ここまで上ってしまえば頂上はすぐそこです。

避難小屋から頂上は目と鼻の先です。岩々した登山道を進むと頂上に到着しました。頂上には薬師如来像があります。左手には富山の町が見えて、日本海がきれいに広がり、正面は立山・剣、さらに右奥には後立山の美しい稜線、不帰や八峰をたどり針ノ木岳から裏銀座。右手は読売新道から赤牛岳や黒部源流の山々、さらに右後ろには槍穂高の山脈。360度の大パノラマでした。今日はテントに戻るだけなので、時間もたっぷりあります。山頂でゆっくりと山々を眺めながら次に歩きたい稜線に想いを馳せていました。


帰りは来た道を戻ります。たくさんの人が薬師岳に向かって登っていきました。14時に薬師峠まで戻ってくると、驚くほどのテントの数。びっしりでした。さすが7月の三連休。ここまでとは想像していませんでした。私たちのテントの周りも張り綱が入り組んでいて、テントとテントがとても近くてちょっと驚いてしまいましたが、皆さん何とかテントが張れそうな場所を探していらっしゃいました。夜トイレに行くときに絶対に足にひっかけてしまうやつです。
この日はお天気が最高で、逆に言うと日差しがとても強くて、遮るものがないテント場では太陽の光が肌に突き刺さります。テントの中は高温になりすぎてとても入れないし、かといって外にいると太陽の光が痛いほどです。傘で日陰を作りそこでゆったり過ごしました。家から凍らせて持参したビールはちょっと冷たくて、ポカリスエットも沁みました。この時間が至福の時です。管理棟も開いていたので、缶ビールを1本購入させてもらいました。コーラも700円で販売していました。16時ころに食事を作って夕食にして、次の日が早いので、19時には就寝しました。
黒部五郎岳
北ノ俣岳の稜線
この日は黒部五郎岳をピストンし、薬師峠でテントを撤収して折立まで下山する予定でした。山と高原地図のコースタイムで14時間半程度のロングコースなので、朝3時に出発です。黒部五郎岳まではアップダウンを繰り返す道なので、行きも帰りも同様に上りと下りがあります。2時起床、朝ごはんを食べて3時ころ歩き始めました。ヘッドランプの明かりを頼りに進みますが、遠くの山々にもヘッドランプの明かりが点々としていて、人が歩いていることがよくわかります。薬師岳方面に向かう明かり、雲ノ平から高天原方面に向かう明かり、私たちが向かう北ノ俣岳方面にも点々と明かりが見えます。
太郎平小屋を過ぎてからは木道を進みます。北ノ俣岳まではコースタイムで約2時間程度、緩やかな登り基調の道です。神岡新道との分岐が見えてくると北ノ俣岳はすぐそこです。徐々に東の空が明るくなり始めるころ北ノ俣岳に到着しました。ここから先は左手に朝焼けの空を携えて下っていきます。少し下ると小高い1つの山があります。赤木岳です。山頂付近は岩になっていて足元注意です。ちょうど赤木岳の山頂に数名の登山者がいて、太陽が昇るのを待っているようでした。ちょうど赤木岳を通過したころ、太陽が上がってきました。
中俣乗越から黒部五郎岳
ここから中俣乗越まで下っていきます。中俣乗越の標高は2500m程なので、そこからさらに黒部五郎岳2839mまで標高差300m以上を上ることになります。このアップダウンが、南アルプスの南部を縦走しているような気持ちになりました。そして、中俣乗越のあたりから黒部五郎岳を眺めると、山頂に向かって登る登山道がとても急登に見えて、登れるのか不安になっていました。それでも、直下に来ると遠くから眺めていたほどには急登ではなく、これならじわじわ登っていけば大丈夫と思うことができて、1歩1歩歩いていきました。するとあっという間に黒部五郎の肩に到着し、そこから山頂までは岩がゴロゴロした道を10分ほどで到着します。

山頂には数名の人がいましたが、そこまで混雑しておらず、ゆっくりと景色を堪能することができました。黒部五郎岳の眼下に広がるカールは雄大で、水の流れがキラキラと光り輝いていました。視線を上げると360度、素晴らしい山々の景色が広がります。昨日訪れた薬師岳もきれいにそびえたっていましたし、薬師岳から見るよりも槍ヶ岳は大きく見えたし、三俣蓮華岳や水晶岳もすぐ近くに見えました。薬師岳の奥には立山や剱岳が堂々としており、後立山連峰の白馬岳もくっきり見えました。白山もくっきり見えました。自分の足で数時間歩くだけで、見える景色や山の形が全然変わることに感動します。いままで訪れた山々から見えていた黒部五郎岳。流石の景色でした。山頂もゴーロになっていて大きな岩がたくさんあるので、座りやすそうな場所を見つけて、ゆったりと山々を眺めていました。最高。

薬師峠に戻ります
もっとこの景色を眺めていたいけれど、今日はまだ先が長いため、後ろ髪をひかれながら来た道を戻ります。帰りはとにかく暑かった。太陽の光が力強く、真後ろから照らされます。天気が良すぎて気温がぐんぐん上がっていきます。空が青く、これぞ夏山という雰囲気でした。


来た道を戻ると言っても時間帯が異なると雰囲気も全く変わります。朝は暗くて見えなかったハクサンイチゲの群落やチングルマたちも咲き誇っていました。
テントの回収と下山
太郎平まで戻ってきました。ここから薬師峠キャンプ場までテントを回収しに行かなければなりません。実は前日に太郎平小屋でテント泊の受付をした際に、次の日は荷物をデポしてもいいよと言ってもらえていたのですが、最近、知り合いがデポしていたアイゼンを盗まれたという話を聞き、人の出入りが多い場所に荷物をデポしておくことが怖くて、それならテントを建てたままの方がまだ盗まれるリスクは少ないのでは?と思い、往復40分歩こうということになりました。テントも盗まれる時代なので安全ではありませんが、少しでもリスクを減らしたくてその選択をしました。
テントを回収して再び太郎平に戻ってきました。11時前でたくさんの人が小屋でラーメンやカレーを注文していました。私はここで絶対に冷たい炭酸を飲むと決めていて、キリンレモンを1本購入しました。生き返りました。
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そして、北アルプスの山々ともお別れです。折立まで一気に下山します。名残惜しいし、もっとこの景色の中にいたいけれど。今日のこの景色を目に焼き付けて、意を決して下山です。
帰りは一気に標高を落としていきます。初めは木道、次に階段、そしてガレた登山道。このガレた道がとても歩き辛く体力を奪われました。標高を落とすごとに空気が生ぬるくなっていき、気温が上がっていきます。この気温によって現実に引き戻される感じがして寂しさを感じるのです。三角点からは樹林帯です。木の根が張り巡らされた土の急登を下っていきます。この辺りから前述した通り、蜂が気になり出しました。刺激しないように静かに歩きます。
そうこうしているうちに車の音が聞こえてきて、あっという間に折立登山口に戻ってきました。
まとめ
今回は1泊2日テント泊で、北アルプス薬師岳と黒部五郎岳を歩く山旅でした。最高の天気に恵まれ、北アルプスの奥深い山々に囲まれ、素晴らしい景色を目に焼き付け、特別なかけがえのない時間を過ごすことができました。
7月の3連休ということで混雑していて、駐車場やテント場では少し苦労をしましたが、それを踏まえても最高の山行になりました。なかなか訪れることができなかった北アルプス薬師岳と黒部五郎岳。やっと会いに行けて幸せでした。