2025年2月8日、日本列島に襲いかかった寒波は、前武尊岳を真っ白な世界に変えました。極寒と共に降り積もった大量の雪は、スノーボードを愛する私たちに、期待と試練の両方をもたらしました。今回はそんな環境の中チャレンジした、前武尊岳の十二沢ルートをご紹介します。
深雪を歩く
前武尊岳は、群馬県に位置する名山で、四季を問わずアウトドア愛好者に人気のあるエリアです。その雄大な自然と雪質の良さから、冬季は特に多くのスキーヤー、スノーボーダーが訪れます。標高は約2,020メートル。山頂にはヤマトタケルノミコト像があります。この日の気温は-13度、体感気温は-20度以下となり、容赦ない風と雪が私たちを包みこみました。
前武尊岳へ上る場合にはオグナ武尊スキー場で登山届を提出する必要があります。バックカントリーは登山なので、山に入る時は必ず登山届を提出しましょう。また、ココヘリの携行も義務付けられています。登山届を出し、リフトを4つ乗り継ぐと、スキー場のトップに到着します。そこで登りだす準備をして、いざ山に入ります。
バックカントリースノーボードの場合、登攀する際は、スノーシューかスプリットボードで登ることになりますが、私たちはスプリットボードを使っています。スプリットボードでのアプローチは、スノーシューよりは体力的には優位ではありますが、この日の雪の量は強敵でした。先頭を歩くガイドさんは、スプリットボードでも腿まで沈むような深い雪の中を進み、ラッセル作業に奮闘していました。彼の後に続く私たちも、その大変さとありがたさを受け取りつつ、一歩一歩慎重に進みました。
横殴りの風と雪が顔にたたきつけられます。寒さで手の指が冷たさを通り越して痛みを覚え、悴んだ手は何か作業をしようとしても思うように動きません。視界が確保できず、なかなか難しい状況でも、1歩1歩あゆみを進めていきます。40分程、登ると前武尊岳の頂上に到着します。
深雪を滑る
いざ滑走となると、待ち受けるのはさらに深く、ふかふかのパウダースノー。この日ほどの極上の雪質はなかなか体験できませんが、その反面、スノーボードが雪に沈みすぎてバランスを取るのが難しく、コントロールには高い技術が要求されました。深雪を乗り越えるたびに、雪の抵抗感が伝わってきます。私の板もパウダーボードで、非常に浮きやすい特徴を持った板ですが、この日の雪は深すぎました。もう少しノーズが大きくて長さがある、浮力の高い板でないと太刀打ちできない。そんな印象を持ちました。
それでも、この日の雪はまさに「極上」の一言に尽きます。ふわふわと舞う粉雪は、手で触れるとサラサラと流れ落ち、視界いっぱいに広がる白銀の世界は、息を呑む美しさです。そんな極寒と雪との対話が、スノーボーダーとしての喜びを何倍にも引き立ててくれるような気がします。滑りながら、胸のあたり、顔の横に雪を感じる瞬間は素晴らしかったです。山に入らないとここまで深い雪に出会えることはない。そう思うと、何度でも山に入って滑りたくなるのです。
悪条件の中でのモードチェンジと登り返しと滑走
数十メートル滑走し、風を避けられる樹林帯でモードチェンジ。登り返す準備を行います。すぐ先に先ほど登った自分たちのトレースがあるので、そのトレースを使ってもう一度登ろうという計画です。風と雪が容赦なく襲い掛かり、悴んで思うように動かない手を使って行うモードチェンジはとても難しかったです。雪がシールに張り付くと、シールが板にくっつかなくなります。でも、払っても払ってもすぐに雪がシールにくっついてしまい、なかなか苦労しました。やっとモードチェンジを終えて、再び歩き出します。2回目はラッセルの跡があったため、1回目よりも楽に登ることが出来ました。
前武尊岳の頂上から十二沢を滑走します。先ほどよりも長い滑走距離。深い深い雪に恐怖と興奮が入り混じる感情を抱きながら、雪の上をすべるすばらしさをかみしめながら滑りました。十二沢を降りていくと、正面にオグナ武尊スキー場の第6リフトが見えてきます。リフト下からゲレンデに戻っていきます。
まとめ
十二沢は、前武尊岳に位置するバックカントリーのスキー・スノーボード愛好者に人気のあるルートの一つです。十二沢は、様々な地形が楽しめるルートとして知られています。森林エリアを抜ける細かいツリーランや、開けたバーンを滑ることができるので、それぞれ異なる滑走体験が味わえます。また、このエリアはパウダースノーの質が非常に高いです。軽くてドライな雪は、滑走時にふわふわとした浮遊感を味えます。そして、 前武尊岳自体は比較的アクセスが良く、日帰りでのバックカントリーも可能なエリアです。
とはいえ、バックカントリーは自然の中でのルートであり、しっかりとした事前の確認と計画が必要です。自然をしっかりとリスペクトしつつ、事前の準備と計画を安全に配慮することがとても大切。リスクを理解し、リスク管理を行い、リスクを引き受けて、山の中という特別な場所でのスノーボードをこれからも楽しみたいと思います。